マイクロ特許事務所

弁理士 博士(化学) 小池誠
日本弁理士会等役職;令和5年度常議員、広報センター会誌編集部、関東会相談室運営委員会、関東会東京委員会;日本弁理士協同組合総代;日本知的財産仲裁センター(調停人・仲裁人・判定人候補者)
所属学会;日本工業所有権法学会、デザインと法学会、日本被害者学会、日本化学会、電子情報通信学会、情報処理学会、人工知能学会、日本認知科学会、日本神経回路学会、日本神経科学学会、日本生理学会、日本比較生理生化学会、日本社会精神医学会

タグ:不正競争防止法

大阪地裁令和3年5月13日判決、平成30年(ワ)8708号

 

本件では、特許権に基づく権利行使と不正競争防止法に基づく権利行使の双方が主張されているが、このような事案は珍しいこともあり、紹介する。

 

平成17年9月9日に登録された特許3718279号では、発明の名称は被包型側溝である。ここで、側溝とは、排水のために道路の脇などに設けられる溝のことであるが、本発明の対象は、側溝に蓋がついている。

 

以下、判決から抜粋する。

 

原告は,本件特許権に基づく権利行使と不正競争防止法に基づく権利行使とを並行して行い,原告側の権利の分説も,各被告製品の構成の分説も同様のものとして行っているところ,既に検討したとおり,各被告製品は,本件発明の構成要件の一部を充足せず,原告は特許権に基づく権利行使が認められないのであって,その場合に,構成や充足に争いのない,すなわち側溝や側溝蓋として一般的な構成,形状に属する部分が共通であることを理由に,不正競争防止法に基づく権利行使を認めることは,特段の理由がない限り認められないというべきである。

 

原告製品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示にあたるといえるためには,原告製品の形態それ自体に,需要者をしてその商品の出所を認識させるような特別顕著性が必要と解されるところ,原告は,原告製品の形態の特徴を,本件発明の構成要件の分説と同じ内容で特定するに止まり,形態の特別顕著性について格別の主張をしていないから,原告製品の形態に商品等表示性を認めることは,困難である。

 

引用終了

 

なお、原告は、不正競争防止法213号に定める商品形態でなく、不正競争防止法211号に定める商品等表示を主張している。

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2020年7月9日に東京地方裁判所刑事第15部の赤松亨太裁判官は、不正競争防止法に定める営業秘密侵害罪を理由としてソフトバンク元社員に対して、懲役2年、執行猶予4年、罰金80万円を言い渡した。

 

特許法、実用新案権法、意匠法、商標法に違反したときであっても、刑事裁判はほとんどない。これに対して、不正競争防止法に違反したときには、刑罰規定が発動して刑事裁判に発展することがある。

 

文献

ソフトバンク元社員に有罪 ロシア外交官に情報漏えい 東京地裁

時事通信、7/9() 11:16配信


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神戸市東灘区の精肉卸売会社が、『交雑種』を『和牛』と偽って販売したり、外国産の豚肉を兵庫県のブランド豚『雪姫ポーク』と偽って販売していたので、兵庫県が不正競争防止法違反容疑で告発状を提出しました(文献)。

 

ところで、商品の原産地、品質などに誤認させるような表示をする行為も、その表示をした商品を譲渡する行為も不正競争防止法2条1項20号に抵触します。

 

『交雑種』を『和牛』と偽る行為は、商品の品質について誤認させるような表示になりますし、外国産の豚肉を『雪姫ポーク』と偽る行為は、商品の原産地について誤認させるような表示になります。

 

平成30年に不正競争防止法が改正され、限定提供データに関する規定が不正競争防止法2条1項12号から16号に追加されたので、条文の番号が移動しています。また、不正競争防止法2条1項20号は、商標法3条1項3号に対応する規定であり、商標法を専門とする弁理士には馴染み深いものがあります。

今回のように不正競争防止法違反は刑事事件に発展することがあるのに対して、商標法違反が刑事事件に発展することはほとんどありません。

 

関連規定

 

不正競争防止法2条1項20

商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

 

文献

豚5t・牛520kgを『偽装販売』と判明「神戸サカヱ屋」…県が警察に告発状提出

MBS news、毎日ブロードキャスティングニュース、202024

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200204-00031450-mbsnewsv-l28

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警視庁公安部が不正競争防止法違反の容疑で、2020年1月25日に千葉県浦安市に住む男を逮捕いたしました(文献)。報道によると、容疑者は、会社の通信関連業務を統括し、職務上、サーバーにアクセスする権限があったとされています(文献)。

 

ところで、不正競争防止法は、営業秘密について2条1項4号から10号まで規定していますが、行為としては、取得する行為、使用する行為、開示する行為について規定しています。

 

不正競争防止法2条1項4号は、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為について規定しているのですが、本件では、容疑者は職務上、サーバーにアクセスする権限があったので、不正取得には該当しないと解されます。

 

不正競争防止法2条1項7号は、営業秘密保有者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為について規定しています。

 

本件では容疑者は営業秘密を第3者に開示しているので、不正競争防止法2条1項7号に抵触する疑義があります。

 

不正競争防止法2条1項7号は図利加害目的を要件に定めているのですが、例えば、退職者が顧客名簿を持ち出し、退職後、この顧客名簿を使ってダイレクトメールを送信したときに、図利加害目的が認定されています(札幌地方裁判所平成6年7月8日決定)。

 

最近では、自動車会社の元従業員が別の自動車会社に転職するとき、営業秘密を持ち出した事件について、最高裁判所第二小法廷(平成30年(あ)第582号、平成30123日決定)は、営業秘密侵害罪と判断しており、被告人の上告を決定で棄却しました。

 

 不正競争防止法の関連規定

4号 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

 

7号 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

 

 

文献

機密情報をロシア通商代表部に提供か 不正取得容疑で大手通信会社元社員逮捕

1/25() 19:35配信、産経新聞

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200125-00000547-san-soci

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平成30年不正競争防止法改正によりビッグデータのようなデータを保護する規定が追加され、これに伴って、弁理士の職域が拡張いたしました。

 

現実社会ではデータとして個人情報が特に重視されており、インターネットのターゲッティング広告は多かれ少なかれ個人情報に基づいています。これに伴って、企業法務を中心として、個人情報保護法、GDPRについて新たな需要が生まれています。

 

このような背景のもと、個人情報保護法、GDPRに関する基礎知識は身に着けておいてもよいのかな、と考えています。

 

とはいっても、弁理士としては、個人情報保護法、GDPRより不正競争防止法の重要性が高い旨を付言いたします。

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